連戦が続くと、選手の運動量は、落ちる。
積み上げてきたゲームから起こる疲れと、まだ続くゲームへの備え。
体は力を温存しようとする。
わずか2週間で5試合。全チームが同じスケジュールとはいえ、過酷だ。
サッカーでは、90分のゲームで、ダッシュとジョギングを繰り返し
その距離は、時には15キロに及ぶともいう。
その日、アルビは、5連戦の4試合目。疲れは頂点に近い。
さらに、まだ1試合残っている。
しかも、3日前には、アジアを代表するクラブチーム、レッズと対戦。
互角の戦いを展開したが、ロスタイムで決勝ゴールを決められている。
「体」の疲れだけでなく、「心」の疲れも選手を襲う。
ビッグスワンは2階席のてっぺんまでサポーターで埋まった。
4万人を超えるはずだ。
後ろに座っていた、東京から来たと思われる、全国紙の記者の声が
聞こえてきた。
「すごいな新潟。スタンド満員だよ」
レフェリーの長いホイッスルがスタジアムに響き、ボールが1回転した。
前半の45分が始まった。
対戦するジュビロは、開幕から低調だった。
勝てない試合がつづき、フロントは急遽、
韓国代表フォワードの獲得を決断。
その選手が合流してから、チームは復調し、勝利が続いている。
連戦が続くと、選手の運動量は、落ちる...一般的には。
アルビの選手は躍動した。
試合開始と同時に、ピッチを全力で駆け巡る。
選手たちの動きにためらいはない。
ただ、勝つために、
そして、4万人を超えるサポーターに
ただ、楽しんでもらうために・・・。
韓国代表でもある、チョ・ヨンチョルが初ゴールを決める。
矢野が起点となって、ペドロにもゴールが生まれる。
今度は、ペドロが起点となって、矢野のゴールをお膳立てする。
立て続けに3点を奪ったアルビは、ジュビロを目覚めさせた。
連戦で、運動量が落ちていたジュビロの選手たちが、本気になった。
あっというまに2点を奪われた。
どちらも、サッカーの戦術を解説した本にでてくるような
基本的で、そして、きれいなゴールだ。
基本的ではあるけれど、
基本をしっかりと表現できることはそう多くはない。
2つのゴールは、ジュビロの選手が、
いかに基本をしっかりと表現できるか、
レベルの高さを感じさせるものだった。
試合は、後半に入ると、ジュビロのボール支配率がぐんと高くなった。
鈴木監督のハーフタイムの指示にはこう記されている。
「長いパスに気をつけろ」
ジュビロは、前線へ、ときには、逆サイドへ長いパスをつないで行く。
あっという間に、バイタルエリアにボールを運ばれる。
鈴木監督の指示には、こうも記されている。
「1点をリードしていることを忘れるな」
仮に、ゴールを奪われてもまだ同点だ。
残り時間との兼ね合いにもよるが、
勝ち越しのチャンスだって十分あるはずだ。
しかし、選手たちには、その余裕が見えない。
勝ちたいという気持ちが、走りすぎているのだろうか、防戦が続く。
後半の45分が経過した。
ロスタイム。
ほとんどのサポーターが勝利を確信したとき、
アルビのペナルティエリアで、レフェリーがホイッスルを長く吹いた。
左サイドに展開するパス。
その1本のパスを巡って、
センターバックの千代反田が相手選手と交錯した。
意図的ではなかったが、明らかなファールだった。
ペナルティキック。
千代反田は、ピッチを激しく両手で叩き、悔しさをにじませる。
ゴールキーパー北野は、ポストの脇に置いてあるボトルを口にしている。
北野はこの日、Jリーグ公式戦通産99試合目の出場。
その北野に、キャプテンの本間が歩み寄り、何かを話している。
北野が、なんどもうなずいている。
この日、1ゴールをあげたペドロは、
ジュビロの選手がスポットに置いたボールの位置を
覗き込むように確認している。
ペドロから見れば、ボールがスポットから、
ほんの数センチずれて見えるのかもしれない。
ジウトンは、ボールをける、
ジュビロのブラジル人選手に何か話しかけている。
どんな言葉をなげかけているのだろうか。
そして、
矢野は、ゆっくりゆっくりペナルティエリアのなかを歩いている。
ペナルティキックでは、ゴールキーパーとキッカー以外、
エリアの中にいることはできない。
ほかの選手は、全員ペナルティエリアから出ている。
しかし、矢野は、ゆっくりゆっくりペナルティエリアを歩いている。
レフェリーが、促すが、矢野は動じない。
ペナルティキックは、精神力が試される。
いかに、心を平静に保てるか試されるのだ。
キーパーではなく、キッカーの、だ。
ゴールキーパーは、決められて当然。
止めたら大絶賛をうける。
しかし、キッカーは、決めて当然。
決められなかったら、どんな批判をうけるか分からない。
過去、イタリアの至宝とも言われた、
あのロベルト・バッジョでさえ、
PKのプレッシャーに負けた。
94年ワールドカップアメリカ大会決勝。
史上初の決勝でのPK戦。
最終キッカーだった、バッジョが決めれば、
イタリアは優勝の望みをつなぐ。
しかし、はずせば優勝が潰える。
バッジョの右足から繰りだされたボールは、
大きくバーを超えていった。
蹴った瞬間にボールの行方がわかるほど、
大きくはずした。
3対2、1点差。
ロスタイム。
決められれば同点というペナルティキック。
ペドロも、ジウトンも、矢野も
みんな、キッカーにプレッシャーを架けていたのだ。
ゆっくりと歩いていた矢野の最後の一歩がエリアから出ると、
レフェリーは、ホイッスルを響かせた。
ジュビロのジウシーニョが、ゆっくりとボールに近づく。
最後の一歩を大きめにステップすると
右足からボールが蹴りだされた。
北野は、右に飛んだ。
ボールは、鋭かった。
そして、ゴール左上の隅に吸い込まれ、ネットを揺らした。
ジウシーニョは、右足のフロントにボールをかませ、
最も基本的と言われる、キーパーの利き腕の逆の上の隅に
見事に蹴りこんだのだ。
時として、勝利は気まぐれだ。
つかみかけたと思っても、最後の最後に
伸ばした指の間からすり抜けて行く。
でも、アルビはいいプレーを展開している。
10節が終わった。
まだ、リーグは序盤だ。